“病棟の慣れ・なあなあ”を正す師長の改善&動機付け

本記事は、ナースマネジャー2014年5月号に掲載された記事の抜粋です。
最終校正前の原稿を元にしていますので、掲載された文章とは若干異なることをご承知ください。

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「裏リーダー」「裏マニュアル」の理解に基づく
インフォーマル組織を活用した組織改善戦略

(合)リーダー研究所 佐藤直曉

     
1.組織における裏リーダーの問題点
 看護師長が新しい取り組みを試みようとするにもかかわらず、裏リーダーがそれをにぎりつぶす。また、スタッフが裏リーダーを恐れて、裏リーダーの了承なしに現場が動かない――本稿では働きやすい職場づくりをミッションとする看護師長が、このような抵抗を排除しつつ、より効果的な改善活動を行うためにはどのような戦略をとるべきかについて述べていきます。

1)インフォーマル組織と裏リーダー
 病院の組織図にある看護部や病棟のようなフォーマルな命令系統に対し、親睦や情報交換を目的としたグループ、あるいは派閥といった組織はインフォーマル組織(裏組織)と呼ばれます。

裏組織が管理者と一体感を抱いたときには生産性が高まりますが、信頼関係を築けなければ、病院改革に対する不満のはけ口ともなって、問題を複雑にします。とりわけ裏リーダーは、フォーマルな権限はなくとも、グループを実質的に動かしうる存在なので、良くも悪くも組織にとって重要な役割を果たします。

2)裏マニュアルが生まれ維持される原因
「裏の看護手順やマニュアル」を裏マニュアルと呼びます。看護師長が仕事の改善を認識し是正を求めても、実際には裏マニュアルがまかり通るのはなぜなのでしょうか。その最大の理由は、「人は楽に仕事をしたい」と考えるからです。しかし、この問題の背後には、マネジメント上の問題があります。

以下略

(1)組織のプレッシャー
(2)忙しすぎるための防衛策として
(3)裏組織の規範が行動を拘束する

2.裏リーダーを理解しよう
〜裏リーダーの典型的行動パターン(略)
①自己主張が強く感情的で威圧的なタイプ 
②新しい事を好まず、現状維持を主張し現場の士気を低下させるタイプ
③過去の失敗例をもち出して、常に反対するタイプ

3.改善遂行戦略とマネジメント的視点
 前述のように、裏リーダーに対しては十分配慮して対応することが求められますが、改善活動を成功させるには、裏リーダー対策だけでは不十分です。リーダーとしての基本的な態度をしっかり保ちつつ、具体的な改善遂行の戦略を構築することが重要です。
 
1)リーダーとしての基本的態度(略)
(1) 対立に固執しない態度を保つ
(2) 結果を急がない
(3) 裏リーダーとのコミュニケーション

2)改善を組織に浸透させる基礎理論
 E・M・ロジャーズは、新しいアイデアに対して受容しやすい人とそうでない人がいて、あるタイプの人たちから順にアイデアが採用されていくと述べています。

 ロジャーズによると、最初に新しいアイデアに飛びつくのは、革新者と呼ばれるグループです。「お先走りのおっちょこちょい」という感じでしょうか。集団のなかでは変わり者と見られています。全体の人数の2.5%くらいがこのタイプです。

 革新者がそこそこ成功すると、次に刺激されて動き出すのが初期採用者です。改革においては、この人たちが特に重要な役割を果たします。彼らは集団のオピニオンリーダー的存在で、他のメンバーから信頼され、強い影響力をもっています。全体の13.5%程度を占めています。
 
 初期採用者の次に動くのが初期追随者です。初期追随者は「旧態を捨てさるに際して最後であってはならないが、さりとて新しいものごとを試す最初の人間にはなりたくない」と考えています。
 
 初期追随者のあとには、後期追随者、遅滞者とつづきますが、初期追随者まで達すれば、新しいアイデアはほぼ成功したといえるでしょう3)。
 
 図1のように改革・改善は初期段階において非常に多くの努力を要します。ヒト、モノ、カネをつぎ込んでもなかなか成果が出ません。雪だるまを押すときのように、いったん転がり出せば比較的力がいりませんが、それまでは関係者との辛抱強いコミュニケーションが看護師長には必要になります。

画像の説明

3)看護師長のための改善遂行戦略
(1)スタッフとの信頼関係を築く
 ここでは、改善の遂行戦略を例示します。なお、実践では読者の状況がそれぞれ異なりますので、臨機応変に応用しください。
 
 リーダーがまだスタッフから信頼を得ていないときには、まず「現世利益」を提供することを考えます。特に「貧乏暇なし」サイクルに陥っているグループは、貧乏暇なし状態から脱却させなければ先に進めません。
   
 具体的には、業務に対する不満点、問題点、改善点をたずね、作業環境の改善に協力することがよいでしょう。会議形式でたずねるか、個別に話を聞くかは状況によります。
 
 集められた問題は三つの山に分けます。第一の山は、比較的費用がかからず結果がすぐ出る問題です。たとえば、設備の改修(トイレの鍵が壊れているといった些細なことでもいい)や医薬品・物品の管理方式変更などです。

これらは改善効果がはっきり見える格好なテーマですから、全力で解決を目指します。本誌1月号、山田眞佐美氏の職場環境整備に関する記事は、作業環境の改善だけでなく改善遂行戦略についてもたいへん参考になりますから一読をお勧めします4)。
 
 次に第二の山は、いますぐ手をつけられないものの、上司や病院トップの支援があれば解決できる問題です。これらは上司と交渉し、いつまでに解決するとメンバーに約束することが信頼関係構築にとって有効です。
 
 また、第三の山は解決できない問題で「いまは無理だ」と正直にはっきり答えます。
 
 このような行動をとれば、看護師長に賛同してくれる人も出てくるでしょう。最初に近づいてくるのは「革新者」でしょう。そこで、看護師長は彼らと共に、次の改善計画を練ります。彼らとは強い心情的絆をつくり、改善に対する考え方を共有していきます。
 
 さて、こうして当面の対策が働き出すと、初期採用者が近づいてきます。彼らは組織のなかでインフォーマルなリーダーシップをとっている人たちです(裏リーダーの場合もありえます)。

彼らは仲間から尊敬され、改善にも一家言をもっています。しかし、絶対失敗したくないと思っているので、革新者の成果を注意深く見守っています。そして、うまく行き始めると動き出してきます。
 
 看護師長は暖めていた改善プランを彼らと共に熟成させ、組織に本格的に導入していくことにします。ここまでくれば、かなりの手応えを感じられるでしょう。
 
(2)戦略の初期段階における注意点
 戦略の初期段階では、なにがなんでも成果をあげなければいけません。大きなプロジェクトは時間もコストもかかり挫折する可能性が大きいので、小さなプロジェクトを選びます。大きなプロジェクトを行うならいくつかの小テーマに分割して、成功しやすいと思われるところから着手します。
 
 初期段階は小さなプロジェクトで構いませんが、100%の成功を収めなくてはなりません。「このプロジェクトを全体に広げたら、すごいことが起きるぞ」と想像させるものでないといけません。これが関係者の信頼感と受容度を高めることにつながります。
 
 特に戦略立案事に大事なことは、参画メンバーが成果をイメージできるようにすることです。そのために、ヒントになる先例や過去の実績を調べ、よその病院や他病棟に成功例があれば話を聞いたり視察に行ったりします。

プロトタイプ(試作品)をつくることが有効な場合もあります。とにかく、目で見ることぐらい強いものはなく、これによってプロジェクトの成功率は大幅に高まります。
 
 初期段階でもうひとつ大事なことは、プランを外部に宣伝しないことです。目に付きすぎると反対者につぶされますから、むしろ秘密主義の方が得策です。できれば反対中枢から遠く離れた「辺境の地」で、ひっそりと小さく産んで育て、力を蓄えるのが理想です。
 
4.成果を得るための必要条件
1)コミュニケーション能力(相手の長所を認める能力、説得力)
 コミュニケーション能力にとって最も大事なことは、相手の行動基準や価値観を知ることです。つまり、何を重視して行動する人間かを察知する人間分析力です。たとえば、説得場面においては、自分の価値観を押しつけず、相手の経験や価値観にかなう話し方をしなければ、話は理解されません5)。
[図2挿入]

2)データやファクト(事実)に基づいて話をする
 現場の問題について裏リーダーは熟知しているでしょうから、生半可な知識では太刀打ちできません。対等に話しあうにはデータやファクトを集め、それをもとに論じる必要があります。データやファクトというといかめしいですが、「ゴミ箱があふれている時間帯」の記録とか「薬がすぐに見つからない時間ロス」の記録といった簡単なことです。
 
3)組織的な支援(精神的支援と物的支援)
 戦略遂行にはヒト、モノ、カネ、時間が必要です。現場が「貧乏暇なし」の場合には、改善作業は「貧乏救済」から着手しなければなりません。そのためには、上司や上層部に働きかけて資源を確保する必要があります。病院上層部も看護師長をしっかりサポートする姿勢を見せなければ成果は得られません。

6.まとめ(略)

引用・参考文献
1)Chapter.14(ヒューマンファクター事始)http://www5f.biglobe.ne.jp/~kotohaji/HF/HF2nd/chapter_2nd_14.html
2)佐藤直曉:伝動戦略、P143〜146、鳥影社、2002
3)佐藤直曉:成功を確信させる暗示型戦略、P.192〜194、鳥影社、2003
4)山田眞佐美:スタッフが安全に働ける職場づくり(前編)、ナースマネジャー2014年1月号、P40〜45、日総研出版
5)佐藤直曉:リーダー感覚-人を指導する喜び、P.149〜155、鳥影社、2007

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※内容は、拙著『暗示型戦略』を中心に、『伝動戦略』『リーダー感覚』『リーダーの人間行動学』のなかのポイントを広くまとめたものです。私の本はそれぞれが互いに関連し合っています。詳しく学びたい方は書籍をご参照ください。

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プロフィール
佐藤直曉(さとうなおあき)
慶応大学管理工学科修士、スタンフォード大学経営学修士(MBA) 。ボストン・コンサルティング・グループおよび野村総合研究所にて企業戦略コンサルタント。独立して、企業コンサルタントおよび老人介護事業・高齢者福祉の調査を行う。現在は、リーダー教育を中心とした著述業。ホームページ http://lken-leader-school.com/

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